動画通話の画面に映る窓の反射の中に、椅子に座る黒い人物のシルエット

去年の冬のことだ。

私は在宅ワークで、一日中PCと向き合っている。ある金曜の夜、二十時過ぎに同僚のAさんから動画通話が掛かってきた。来月の配置転換についての話だった。

「ちょっとカメラつけていい?」

「うん、どうぞ」

画面にAさんの顔が映る。背景はいつもの自室の書棚だ。何気なく彼の背後を見ながら、私も適当にうなずいている。

その時だった。

Aさんの画面の隅、窓の反射に写っている自分の部屋が、妙に気になる。

窓ガラスに映る私の姿は、今まさに画面に向かって座っている私の姿と、全く同じ角度で映っている。当たり前だ。でも、その反射の中に、もう一人の私がいた。

画面の中で、Aさんの背景の窓に映る私の部屋の姿。その部屋は、今私が座っている部屋と全く同じレイアウトだった。本棚の本の間隔、机の左に置かれたマグカップ、窓際のカーテンの皺——すべて一致している。

でも、その反射の中の「私の部屋」には、私が座っているはずの椅子に、誰かが座っていた。

黒い服を着た人物が、こちらを向いて座っている。顔ははっきりと見えない。でも、その人物の視線が、画面の向こう側——つまり私のほうをじっと見つめているのが、わかる。

「ねえ、Aさん」

「え? どうしたの」

「今、あなたの背景の窓に、私の部屋が映っているんだけど」

Aさんが苦笑いして、カメラを少し動かした。

「あ、ごめん。窓開けてたから反射しちゃってる。映ってる?」

映ってる。確かに映っている。

でも、その反射の中の黒い人物が、ゆっくりと首を傾げた。

画面の中で、私の背後から、そっと微笑みかけている。

私は背筋が凍るのを感じた。今、私の背後には誰もいない。私が振り返って確認したとき、窓ガラスには私一人の姿だけが映っていた。

「……Aさん。その人物、誰?」

Aさんがまたカメラを動かした。

「え? 何?」

「さっき、私の部屋が映ってたでしょう? 窓に映った私の部屋の、椅子に——」

Aさんの表情が変わった。

「……いないよ。椅子は空だよ」

「さっきは、誰かが座ってた」

Aさんはしばらく黙って、それからゆっくりと言った。

「ねえ、もしかして——」

通話が切れた。

画面がブラックアウトする直前、Aさんの背景の窓に映る私の部屋の姿が、最後のフレームに焼き付いて消えた。

私はその夜、部屋中を三回確認した。誰もいなかった。

でも、次の日の朝、窓ガラスに指紋が一つ、付いていた。

外側のガラスに。