薄暗い作業室。蝋細工で成型された人間の腕が一列に並ぶ。手元のみが蝋の白い光を照らし、他の部分すべてが深紅黒色に飲み込まれる

「蝋は記憶する素材だ」 — 技術者A 口述筆記(2019年4月)


私は京都・中京区の小さな美術修復工房の新人見習いだった。師匠である岩本氏は蝋細工に特化した技法で、人体の一部を正確にコピーする仕事を行っていた。義肢の型取りや、事故で失った指先を再生するための原型作成などが主なものだ。

しかし師匠は半年前の春から、ある注文を引き受けていた。その依頼の主である「K夫人」からは毎週木曜の午後になると、生地の腕を一つ、「蝋細工にする」という旨の指示が入るのだ。

「もう一度、この形で残したいのです。私にしか作れないものが、あとこれ一本だけだから」

師匠は驚くべき精密さで、その腕を型どりした。「まるで生きているかのような滑らかな曲線」「人肌のような温もりが残っている」と語ったのは見習いだったはずだが……


壁から剥がれた額の中に飾られた古い蝋細工。黒い背景に赤茶色の腕が一つだけ浮かんでいる。表面のみ光り、他の部分は影に隠れる

K夫人の注文は三ヶ月続き、三本の原型が完成した。「もうこれで十分だ」と彼女は何度も言ったが、次の木曜日には必ず別の腕を持ち込んでくる。そのたびに師匠は「なぜまた?」とたずねる。「まだ足りない」などと語ったきりの日があったらしい。

見習いだった私はある日、深夜の工事室内で不審な音に起き上がった。窓越しに見えたのは、師匠が誰にともなく腕を並べながら呟く声だった:「これとこれを合体させたら……あの頃の完璧なものがもう一度。」


黒い背景に並んだ蝋細工の原型たち。三本の異なる色の腕が横並び。それぞれ全く同じ角度で配置されている、不気味に整然とした並列

「合体?」と訊いた私の問いに、師匠Kは振り返りもせずに答えた:

「私には三人の息子がいる。事故で三つの腕を失った……全部を蝋細工にした時だけ、私の中に彼らがまた生きている」

私は凍りついた。「そんな話を一度もしなかった」と言うと、師匠Kは初めて振り返り、私の目を見開くように見つめた:

「そうか。では私がもう話す必要がないんだね」


翌日から師匠Kは来なくなった。工事室内に残された手帳には次の通り記されていた:

「四月十五日最終原型完成。K夫人の腕三本をすべて融合させる。蝋細工が私に語り始める。彼らがまだここで生きていることを」

見習いだった私はその夜、閉じられた作業室で震えていた:三人の手を取り合うように並べられた蝋細工。「温かい」。指先だけが柔らかく、まるで「誰かの心臓が鼓動している感覚だ」と記録が残った。


「蝋細工師の技術は死の後にでも息づいている」 — 修復報告書№109抄録(2017年3月18日付)