約束の速達便
2026年08月02日
佐藤は8回目の再配達通知を見た。
「お客様の御荷物は配送センターに到着しております」
最初は困惑した。 amazonでも楽天でもない、名も知らぬ物流会社が送った配達が7回も再配達されるなんて不自然だと思っていたものの、8回目でようやく怖さが頭を巡 came.
最初の1回目は郵便受けに入れてあった黒い封筒。中身は印刷された紙一枚。「明日の午後3時にお待ちください」— 住所氏名は佐藤のものだった。
2回目は同じ会社から「再配達不可能」というSMS。佐藤が不在だったのは事実だが、そもそも注文した覚えがない。
3回目以降、配達物がエスカレートした。白亜のパウダーを詰めたガラス瓶。手紙一枚。「振らないでください」— 振った途端、家中に白い粉が降り注ぎ、三日間咳が止まらなかった。
4回目は生花一束、バラではなく薔薇の枝。棘が鋭く、包装紙には「傷つけないで」と書かれていたのだという。5回目の配達で佐藤の手首はすでに赤い線跡に覆われていた。
6回目は黒い革手袋。サイズはピッタリ合う。着けると右手だけ動かしにくくなるのだという。気づけばその日は一切左手を使えず、キーボード操作が不可能だった。
7回目。「配達員が見つかりません」という連絡があった。佐藤は警察に相談した。番宣の紙をもらったものの、「荷物が不存在である以上、再配達が成立しない」と言われた。
そして8回目。
午前中にSMSが届いたのだという。「本日、最終配達を行います。ご不在の際は開封しないでください」
佐藤はその日ずっと家にいた。14時59分まで窓から道路を見た。
15時ちょうどの瞬間に、配達が来た。配送員ではなく、宅配ボックスの投函口が開き、中から白い手紙が滑り込むのが見えたのだという。
佐藤は慌てて開封した。
「おめでとうございます。7つの試練を通過しました。」— 郵便局の消印付きの書留ハガキだ。
宛名欄には佐藤の名前と住所。差出人欄にも佐藤の名前が印刷されている。
内容を読んだ瞬間、血液が冷えたのだという.
「あなたは8月3日午後3時に死亡したものと記録いたします。」
差出人は「未来の配達業務部」— 右下のシールには「速達・優先」という印があるのだ。
佐藤の右手の黒い革手袋が、いつの間にか自分から動いていた。投函口の隙間の向こうで、手が何かを差し出そうとしていたのだという。
開けられない扉。
でもその手はずっと待っている。